かといって、グロテスクな表現が余りなくても現実に起こった歴史上の戦争を美化するような映画もあまり好きではない。漫画のような架空の世界で悪を倒すための戦争映画は好きなのだが…そんな事も考えて、この映画を観ようか観まいか迷っていたがU-NEXTで登録されていたので…何だかんだ言いつつも、つい観てしまった。結果として過剰に血がドバッとなったり人が焼け焦げたりする映像はない、大丈夫な映画だった。
Blu-ray仕様:本編106分 アスペクト比:2.20:1/1.78:1 混合
英語:5.1ch DTS-HD マスター・オーディオ、日本語:5.1ch ドルビーデジタル
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「つい観てしまった」と書いたが、本当の動機は我が家の音響が先日のスピーカーの入れ替えによって格段に上がったので「音」が聴きたかったという、とても不純な動機だったりする。U-NEXTもドルビーオーディオ対応なのでしっかりと5.1chで再生される。映像については本作はIMAX撮影ということもあり、Blu-rayや4K UHDはアスペクト比が2.20:1と1.78:1の混合になっているが、ビデオ・オン・デマンドのU-NEXTではアスペクト比が終始2.20:1のままだった。プロジェクターでアナモフィックレンズを通すと画面上下が僅かだがカットされる。
「ダンケルク」あらすじ
絶体絶命の地ダンケルク。残り時間わずか。
生き抜け、若者たち。1940年、海の町ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の兵士。背後は海。陸・空からは敵――そんな逃げ場なしの状況でも、生き抜くことを諦めないトミー(フィオン・ホワイトヘッド)とその仲間(ハリー・スタイルズ)ら、若き兵士たち。一方、母国イギリスでは海を隔てた対岸の仲間を助けようと、民間船までもが動員された救出作戦が動き出そうとしていた。民間の船長(マーク・ライランス)は息子らと共に危険を顧みずダンケルクへと向かう。英空軍のパイロット(トム・ハーディー)も、数において形勢不利ながら、出撃。こうして、命をかけた史上最大の救出作戦が始まった。果たしてトミーと仲間たちは生き抜けるのか。勇気ある人々の作戦の行方は!?
ワーナー公式サイト「ダンケルク」より引用。© 2018 Warner Bros. Japan LLC All rights reserved.
出演は、フィン・ホワイトヘッド(Fionn Whitehead)、トム・グリン=カーニー(Tom Glynn-Carney)、ジャック・ロウデン(Jack Lowden)、ハリー・スタイルズ(Harry Edward Styles)、アナイリン・バーナード(Aneurin Barnard)、ジェームズ・ダーシー(James D’Arcy)、バリー・コーガン(Barry Keoghan)、ケネス・ブラナー(Sir Kenneth Branagh)、キリアン・マーフィー(Cillian Murphy)、マーク・ライランス(David Mark Rylance Waters)、トム・ハーディ(Edward Thomas “Tom” Hardy)など。ハリー・スタイルズはワン・ダイレクションのメンバーで有名な人。だからといってただ人気のある有名人を起用した映画にはなっていない。主張せず上手く映画に馴染んでいるが、わざわざ起用した意図は分からない。
セリフより、むしろ「音」と「目線」で演出した作品
歴史的な物語をダラダラと語らず、空・海・陸(海岸)の3つの視点から「ダンケルク大撤退」を語っている。この映画はセリフが極端に少ない。極端にセリフが少ないので尚更、映像と音に集中してしまい緊張感は“それなり”に感じる。セリフがなくても「戦争」における状況は観るだけで理解出来る。
所々で小さく心音と共に音楽とも言えないような緊張感を煽るようなBGMが背景でずーっと流れていたりするのだが、その音がかき消されるように銃や、機関銃の音、戦闘機のエンジン音、爆弾の炸裂する音が強調される。「ゼロ・グラビティ」も背景に緊張感を煽るBGMが流れているが“ココだ”というときは無音になる。「ダンケルク」は逆に“ここ!”と言うときに戦闘機のエンジン音や炸裂音が鳴り響く。その音は実際に体験したことがないので分からないが結構リアルに感じて、後方から戦闘機が迫るサラウンド感とJBL S3100から鳴る炸裂音や銃器音の乾いた音が凄くて怖い。
軍人だからなのかパニックになることも無く、意外と黙々と撤退するための船に乗船したりするので、あまり「焦り」を感じなかったのだが、その中でも意外と主人公のトミー2等兵(フィン・ホワイトヘッド)と無口な兵士ギブソン(アナイリン・バーナード)は声を発せずとも焦りを強く感じさせる。ここが演技の上手いところなのだろうか、全く騒がないが“生きたい、死にたくない”がひしひしと伝わってくる。
カメラワークが人物の“目線”を追う顔を映して、その先に“敵がいる”や“何かがある”ことを音と共に知らせる。このやり方が上手く観る方の緊張感を与える。答えは直後に映像で分かるのだが観ている私もその目線の先にあるものが気になる。この映画「ダンケルク」では敵国にあたるドイツ軍の兵士が殆ど映らない。顔がハッキリ見えるシーンは一度も無い。戦闘機などは映るが敵となる人物が映らない。この映像ではそんな“見えない敵”がより緊張感を生む。
こんなに黙々・淡々と戦争をする映画は初めて見た
撤退するために陸軍が列を成して船に乗り込む。そこに時折ドイツ軍の戦闘機、数機が撤退を阻止しようと上空を飛び、爆弾や機関銃を浴びせてくるのだが、それでも騒いだりしない。黙ってしゃがむ・伏せる。実際ってこんな感じだったのだろうか。私ならパニックになって、いの一番に逃げ出しそうだ。イギリスの戦闘機も撤退を援護するためにドイツ軍の戦闘機と空中戦をおこなって撃墜するのだが、それも割と黙々とこなす。エンターテインメントな映画ではよく撃墜したら「ホォー!!」とか「ヒャッホー!」とか奇声を上げたりもするが、そんな下品なこと言わない。軽いノリは一切なく、無線で最低限のコミュニケーションを取るだけ。
これは映画館で観るべきだったかも
そんな「音」に関して結構なエネルギーを割いている映画はやはり音響設備抜群な映画館で観るべき映画だったかもしれない。我が家でもそこそこの環境は整ってきたが、それでも完璧とはほど遠い。小さな音から、大きな音までのレンジが広い映画でもあるので小さな音を聴こうとしてボリュームを上げると爆撃の炸裂音でとんでもないことになる。かといってボリュームを下げると緊張感を促す僅かな音が拾いにくくなる。日中ご近所迷惑にならないギリギリのボリューム、-22dB(各住まいの環境によるので注意)での鑑賞で一応満足出来る音量ではあるができるなら-18dBで鑑賞したかった。
「ダンケルク」は現在U-NEXTで絶賛上映中!有料(もしくはポイント)レンタル版だが、月々もらえるポイントを使って実質無料視聴できた。オリジナルはアスペクト比が2.20:1と1.78:1の混合だがU-NEXTでは終始2.20:1のシネスコサイズのみになっている。2.20:1はアナモフィックレンズを通すと上下の映像が僅かだが切れる。字幕は映像ないに表示されるので問題なかった。有料レンタルのAmazonビデオ(プライムではない)には登録されているが、Netflixにはまだリストアップされていない。(2018年2月5日現在)
毎週楽しいコラムをありがとうございます。
本作は予告編を観ても戦争映画、ということしかわからず、でもせっかく博多に用事があるしノーラン監督だし見とくか、という超お気楽気分で観ました。
当時の博多はliemaxでしたが(今はwith lazorで12ch)、映画が始まってすぐ音で飛び上がりました。それからもう一体何度びくついたことか。見終わったときも観客がそう口にしていて、私だけではなかったかとほっと胸をなで下ろしたものです。
特に参ったのはあの船底で息を潜めるシーン。もう時たま発せられる「ピキーン」という音が壮絶に恐ろしくて、それに耐えきれなくなりそうになって大人になって初めて映画館をマジで出ようかと思ったほどです。
でも反面、映画館で観て良かったとも思いました。そしてまた同時に今でもなんですが、大阪や池袋で観たらどうなっていただろうと後悔しています。旅費込みでもその価値はあったと思います。都会がうらやましい。
BDも購入しましたが、やはりウチキネマーさまの推察通りで、BDとして音は文句なしの満点なんですが、あの時味わった恐怖感とは比べものにならないです。
そして今でも気を引き締めたい、と思ったときにこの作品をつまみ食いですが観てしまう一本です。普通にのんびり惰性のようにして生きていると「生と死」を感じなくなるんですよね。それだけ平和ってことなんでしょうけど。
あと私が作品としても気に入っているのは、本土にいる人にとっては「帰ってきてくれただけで力になる」、本人にとっては「逃げることは恥ずかしいことではない。逃げてもいいんだ」というテーマ。これでただ怖いだけのサスペンス映画から抜きん出た作品になったと思います。
この映画は怖かったです。ホラーとは違う、グロとも違う、戦争の恐ろしさというのでしょうか…大勢でいるのに孤独で不安。で、装備も無い状態なんですよね。丸腰。そこに見えない敵からの銃や爆撃に襲われる恐怖。そもそもリアル戦争映画は好みではないのに、クリストファー・ノーラン監督というだけでつい観てしまったら見事に爆死。めっちゃ怖い。
ここまで音にこだわった映画も珍しいくらいだと思いました。音質云々など音の良し悪しではなくて、BGMも含めたサウンドデザインの方です。私の映画における趣味趣向とはズレるのでIMAXなどの劇場では観ることはありませんでしたが、音の凄さはなんとなく想像はつきます。家庭用とはそもそも雲泥の差で音圧のレンジが広い上に、こういう映画に肝心な「無音状態」は専用ルームでも無い限り、映画館の方がやはり格段に上なので余計にレンジが広く感じるのですよね。本作のキモとなる“静寂”があるからこそ、余計に恐怖を感じるのだと思いました。船底で、時折ビクッ!となるあの緊張感MAXのシーン、メッチャ怖いですよ!こっちの息も止まりましたよ。
肝心のラストもやはりセリフは多くないですが、このラストで本作を映画にしたテーマが全て語られているようでした。リアル戦争映画なので好みだけで言えば正直好きでは無いですけど、凄い映画だと思いました。