中国の顔色うかがうハリウッド映画

先日の日本経済新聞に、こんな見出しでコラムが掲載されていた「ソフトパワー無言の圧力/ハリウッド もう戻れない」。何だか意味が分からなかったので記事内容を読むと…。

米ハリウッドで大作映画の制作者が必ず参照する文書がある。中国政府が映画の公開を認めるかどうかを定めたガイドラインだ。映画制作に30年間携わるロバート・ケーン氏「企画段階から中国の検閲を意識する」と打ち明ける。

2018年3月26日付、日本経済新聞社の記事より一部抜粋

検閲とは、国家権力で表現物(映像や出版物)や言論を検査し、国家が都合悪いと判断したものを取り締まる行為だ。この言葉が出ると必ずと言って良いほど「表現の自由」とぶつかり合っている。

顔色うかがうハリウッド映画

記事内容は中国市場における消費量を“武器”にした中国の影響力に対する懸念を書いている。記事冒頭は映画に関することだったのだが、最近のハリウッド映画の傾向に納得できる記事内容だった。ハリウッドが最大市場になる中国への“顔色をうかがっている”内容だ。「中国で公開できる映画内容になっているかどうか」。ハリウッド映画はその中国政府が定めたガイドラインをもとにして作られている。中国共産党に対する批判はもちろん、過激な暴力や性的シーンも許されない。驚いたのが1985年に公開され大ヒットした映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような時空旅行を扱った作品も検閲対象になるらしい。この理由が凄い。「過去に戻って共産党支持を『変えられる』と連想することを警戒している」らしい。「…マジか。そんなこと?」と多くの日本人は思ってしまいそうだ。少なくとも私は「そ〜んなヤツおらんやろ…」と思った。

爆発的な利益を生み出す映画市場

米ハリウッドが中国政府が作成したガイドラインにそこまで気にするほど中国映画市場をないがしろにできない状況にある。2016年に米中合作で公開した映画「ザ・グレート・ウォール」はアメリカでの興行収入50億円に対し、中国では200億円弱で約4倍の差があったらしい。確かに、この数字を見れば中国における映画市場の規模の大きさを測ることが出来る。この市場規模を放っておけないハリウッドは中国で公開するためにもガイドラインを無視した映画は作れない。

表現の自由を抑制してでもそれに向けて制作するのは、やはり映画はビジネスなのだと改めて実感する。最近の肥満気味にさえみえる、あらゆる映像技術を使ったハリウッド映画はさらにお金を掛けて、より多くの観客が興味を持ち収益を生むような映画を作る。そのためには観客数を増やしチケットを購入してもらう必要がある。アメリカ国内だけの収入では足らずもっと稼げる市場へと舵を取る。お金を掛けなくても“面白い映画”は出来るはずなのだが…それよりもお金を掛けた技術的なことに重きを置いているように見える映画は多い…確かに映像だけ観れば凄いけど映画として面白いとは別。

おざなりにできない中国市場

アメリカの人口が約3億3千万人。対する中国は人口約13億8千万人。全国民の映画を観る割合は分からないが仮にアメリカ全国民が映画鑑賞を1人3回見ても追いつかない中国の人口による物量規模。日本なんてたったの約1億3千万人。興行収入面ではあてにならず“眼中に無い”のは当たり前だ。その為にも米ハリウッドは中国で少しでもヒットするように努力をするのだろう。最近のハリウッド映画では必ずと言って良いほど中国出身の俳優、または中国的な風景(街)を劇中で目にする。本心は各自の心中になるが少なくとも日本人よりも表だって愛国心の強い中国人は自国の人間(役者)が世界規模の映画に出演しているというだけで、または舞台となっているだけで観に行く率は日本人よりも高いように思う。ハリウッド映画もそこを狙っているかのように感じる。

監督もジレンマを抱えているかもしれない

かつて西洋人が興味を持っていたミステリアスでエキセントリックに見えた伝統的な日本文化や慣習はもう通じない。かつての「スター・ウォーズ」も“侍”を意識し「時代(ジダイ)劇」から“ジェダイ”を創作した時代も遥か遠い昔。以前から既に片鱗は見えているが、おそらく今後儲けのためにもっと中国市場を意識して“中国の伝統文化”をどんどんハリウッド映画に取り入れていくのだろう。もちろん私の大好きな映画「スター・ウォーズ」シリーズも例外ではないだろう。監督が本当に作りたい映画はさて置いたとしてもだ。映画監督だって作った映画は世界中の1人でも多くの人に観てもらいたいだろう。最近、ハリウッドの映画監督が途中降板するのはその辺の絡みもあるのかと疑ってしまう。

ビジネスで利益だけに目を向けると人口が多い国が最終的に支配するに決まっている。日本でも流通業界はその縮図でもある。販売店舗の多いショップがメーカーにあり得ない卸値で金額交渉したり、メーカー製品に対して販売店側の自社ブランドを組み込ませたり、店舗が売りやすいように製品に注文を付ける。「言うこと聞かないなら店に置かない」と言える市場を握っている売る側の方が強いからだ。販売店が中国なら米ハリウッドはまさにそのメーカー側にいる。

莫大な利益を得るためのリスク

そのように中国がそっぽを向いたらビジネスが成り立たないような世界経済になるのだけは避けたい。全ては目先の利益のためだけに中国におうかがいを立てて、中国が望むものを作り、世界規模のビジネスは全て中国に特化していく。国益になる輸出品なら国を挙げて中国におうかがいを立てる事になる。それは仮に中国が間違った方向に向かっても各国が自国の利益のために口を出せなくなり、それこそ世界規模で「表現の自由」を奪われることにもつながるりかねない。

後戻りできない状況に陥るビジネス

そもそも、顔色をうかがってまで中国市場でなければ成り立たないほど、お金を必要とする映画やビジネスは一見成功しているように見えるが、将来的に後戻りはできないうえ今後は中国の言いなりになるしかビジネスが成立しなくなる。そんな一方的な意見を取り入れて制作された映画を面白いと思うだろうか。漫画・アニメを輸出する側の日本はそんな中国市場をビジネスとして意識しているのだろうか…できれば後に引けなくなるほど必要以上の利益を求めないでもらいたいと願う。日本には素晴らしい言葉がある。「ほどほど」だ。

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