先日サラウンドスピーカーを“プチ”アップグレードした際にサラウンドスピーカーの向きを内側に変えたと伝えた。これは一般的に推奨されるサラウンドスピーカーの配置としては本来ならよろしくないはず。そもそも巷で推奨されているサラウンドスピーカーの配置は、「ITU-R BS.775-1」などにみられるITU-Rの推奨する基準に則った「ダイレクトサラウンド」の配置が基本になっている。基本になっているが実はこれを真面目に本格的に取り組もうとするとかなりハードルが高い。
※ITUとは:国際電気通信連合(International Telecommunication Union)であり、ITU-Rはその無線通信部門(ITU Radiocommunication Sector)のこと。
Contents
リビングシアターなのでITU-R基準のダイレクトサラウンド配置は到底無理
よくサラウンドを実現するための図解入りスピーカー配置で挙げられているのは、その殆どが視聴者を中心にし、角度も決められて、円周上にぐるりと取り囲むようにスピーカーを配置し、各スピーカーが視聴者を向くように設置するITU-R基準(本来Recommendationsなので基準ではなく「勧告」や「推奨」という意味合いだがITU-R勧告ってなんだか仰々しいので私は基準と言っているだけ)に則っている。しかし、ITU-R基準に則ったダイレクトサラウンドを本気で取り組もうと思うとサブウーファー以外のスピーカーを全て同一のもので揃えることを推奨しているという、一般人には極めてハードルが高いものだ。
ITUホームページ参考文献「ITU-R BS.775-1」より/© ITU 2019 All Rights Reserved
複数チャンネルが出力可能なAVアンプ等を購入すると、説明書に上記ほど詳細には掲載されていないがスピーカーの配置参考図としてこのITU-R基準に基づいた配置方法が掲載されている。似たような基準をもつJapanese HDTVも後方角が若干違うくらいでほぼ同じ。その他、THXmp3などがあるようだ。
この設置が可能な環境にあるなら是非取り組むべきなのだろうが、我が家のようなリビングシアターでの視聴環境の場合はなかなか正確には難しい。この厳格な「ITU-R BS.775-1に則ったダイレクトサラウンド」ではない配置は、言い換えれば「ディフューズサラウンド」配置的とも言える。
ディフューズサラウンド配置と自動音場補正のAudyssey
「ディフューズサラウンド」はサラウンドスピーカーを複数台使用した映画館で採用されているサラウンドのスピーカー配置だがとても曖昧で、ITU-R基準のような「配置はこれを推奨する」という綿密な指針がない(見当たらない)。我が家ではスピーカーがバラバラなので結果的にはITU-R基準に則れていないので意図せず既にディフューズサラウンド的になってしまっているとも言える。恐らく多くのホームシアターがそうなっているだろう。しかし、そのことを分かっていても、何故かどこを見てもダイレクトサラウンド配置図のように推奨しているものだから、今まではなんとか距離や角度をなるべく正確にし、スピーカーを視聴者側に向けるように頑張ってITU-Rの基準に出来るだけ則ろうとしていた。
現在の市販されているAVアンプは音場補正を自動計算である程度上手くやってくれる。そのままでもいいが、できれば自動音場補正は計測の度に若干ニュアンスが変わるし完璧ではないので、実際に視聴したりRTA測定しながら手作業で詰めて行くという作業をすればスピーカーの配置はある程度適当でも映画を観る分には十分な効果を発揮するようになる。だから尚更リビングシアターならダイレクトサラウンド配置にあまりこだわらなくてもOKという考え方でも良いのではないかと思い始めた。
音楽鑑賞には向かないディフューズサラウンド配置
映画館でも音場調整の際の基準点(席)はあるのでその位置という事になるのだろうが、座席数が多いのでピンポイントで音像を定位させるわけにはいかない。映画館などは広く座席数も多いのでディフューズサラウンドが採用され、どの席でもまんべんなく音の方向性が分かるように調整されている。その代わりと言ってはなんだが「音に包まれる」という感覚は家庭よりもスピーカーの数が多いだけに圧倒的に高い。どのみち我が家のリビングシアターではダイレクトサラウンドの実現が不可能なので映画館同様に音の方向とつながりさえしっかりと感じ取ることができればOKとした。
SACDマルチチャンネル再生などの音楽鑑賞ではピンポイントの音像定位が重要視されている。オーケストラでの各楽器の構成や位置など忠実に再現する、オペラ歌手が正面ど真ん中でどの距離の位置で歌っている、コンサートホールの残響音や会場の空気感や臨場感などを再現するなど。あたかも自身がその会場に座って聴いているかのように再現するにはITU-R基準に則ったダイレクトサラウンドは重要になってくる。AVアンプなどを購入したとき、説明書にスピーカーの配置角度の指定などITU-R BS.775-1に則ったスピーカー配置が掲載されているのは、より優れた音像定位を得るためや、ダビングステージ(サラウンド設備を備えた映画の最終ミックスダウン作成に使われるスタジオ)に極力合わせるためにも本来なら遵守するべきなのだろう。
marantz SR8012 取扱説明書より/Copyright © 2019 Sound United, LLC. All Rights Reserved.
しかし、実際に映画を視聴する際は、音のつながりは気にするものの、乱暴な言い方をすれば割と大ざっぱでも比較的問題が少ない。車や飛行機が後方から前方に移動するなど視聴者から何メートル位離れているや、近づいているなどをひとつひとつ考えて鑑賞していないし、風の音や雨の音などバックグラウンド的な割り振りが多く、メインとなる重要な要素の音声をサラウンドに多くは割り振っていない。映像もアップになったり引きになったり。第三者目線で見えたり、主役目線になって見えたりだ。真後ろで扉が閉まるや、右後方でグラスを落とすなど「どの方向から何が」が分かり、「どの方向へ移動していくか」が分かればサラウンド音声収録の映画は十分に楽しめる。だからピンポイントな音像定位を目的として綿密な基準があるダイレクトサラウンドを必要とはしていない。音楽を聴く場合、私はサブウーファーも切った状態の2ch、ステレオ再生だけなのでサラウンド用のスピーカーはディフューズサラウンド的な配置でも大きな問題は無いと判断した。
開き直ってディフューズサラウンド的な考えの配置
今まではITU-R BS.775-1に則ったダイレクトサラウンド配置を無理ながらも意識して、視聴位置正面を0度(12時方向)として視聴位置を中心としたやや後方寄りの120度/-120度(4時/8時方向)とし、スピーカーを視聴位置に向かって出力するようにサラウンドスピーカーを設置していた。しかし、スピーカーの高さが我が家のリビングシアターではどの道ITU-R BS.775-1に則ったスピーカー配置なんて無理(ITU-R BS.775-1では1.2mの高さ)。
映画館ほどスピーカーの数もなく耳へ伝達させるスピーカーの数は決まっている。家庭用で7.1chならフロントスピーカーで1組、センタースピーカー1台。サラウンドスピーカーで1組、サラウンドバックスピーカーで1組(もしくは1台)とサブウーファー1台というスピーカー合計8台の環境だろう。最近ならドルビーアトモス用にトップスピーカーが1〜3組追加されるだろうか。いずれにせよ数には限界があるので、本来なら出来るだけスピーカーは視聴者に向けるのが良いのだと思う。しかし、一方そうすることで、より音像が定位する分、視聴位置もピンポイントで固定され、複数人で映画を見るときは視聴位置が普段とずれることで反って違和感を覚える方が気になる。
これまで6.1chのサラウンドで楽しんでいたが、元々5.1chから始まった「家キネマ。」のスピーカー配置。高さを無視して方向だけで言えば、最初にサラウンドスピーカーの位置を5.1chの指定角度ではギリギリ後方の120度としていたので以前6.1ch用にサラウンドバックを追加したら、サラウンドスピーカーが7.1ch時の本来の位置(100度±10)よりも10度ほどオーバーしていることになっている。かと言ってサラウンドスピーカーの位置を変えると天井クロスにブラケットを設置した際のビス穴が露出してしまう。元あった位置の見た目が汚くなるので今更変えるのは躊躇してしまう。天井クロスを貼り替えたら良いのだが、上手くDIYできない者にはつらい。
定位感よりも音の広がりと音の移動感を優先した結果
ITU-Rの基準では「標準リスニングルームの条件」としてスピーカーの高さも「1.2m」と定められているが、これも全てのスピーカーでは実現できない。映画館は階段状になっているため、フロントスピーカーこそ目線の高さよりやや上(スクリーン高の1/2あたり)くらいだが、サラウンドスピーカーに関しては横のスピーカーも後方のスピーカーも視聴者の耳の位置より随分上方にサラウンド用のスピーカーが設置されている。それでも映画を観ている時はちゃんと横方向や後方からの音として認識している。
以前6.1chにしてから後方向からの音は良くなかったが、気になるほどでもないものの横方向からの音が少し大人しい感じがあったので「だったらいっそのこと…」と、試しに今回サラウンドスピーカーを交換したことを機に、視聴位置を無視して後方天井付近にあるサラウンドスピーカーを真横(内側)に向け、さらにやや下方を向くように調整。
サラウンドスピーカーを交換したので取り外したONKYO D-058Mを使い(使える物は使う)ついでに7.1ch化し、自動音場補正のAudysseyによる再測定&補正をかけた。ONKYO D-058Mの復活によりサラウンドバックとサブウーファーのクロスオーバーが200Hzになってしまうが、一度試して後方定位感がアヤフヤになるなら、元のクロスオーバー値を110Hzまで下げられるONKYO D-108Cを1台使った6.1chに一旦戻し、改めて7.1ch時にサラウンドバックスピーカーをサラウンドスピーカーに合わせて同DENON SC-A17にアップグレードすることを検討する。
ディフューズサラウンド的配置でITU-Rという呪縛から解き放たれる
結果として、5.1chで我が家の場合はこの方が横方向からの音がより明確になり、後方からの音も問題なし。以前と比較するとサラウンド効果は音の繋がりが良くなった分高くなったと感じる。見た目がトップスピーカーのようだが真下に向けるのではなく内向きにすることで、5.1chの映画でも音はちゃんと横方向からも後方からも聞こえ、音の移動感もしっかりあり、なにより5.1ch時でも後方の音の広がりは以前より感じるようになった。7.1chでは真後ろの定位が少し気になるかと思ったが試した映画の中ではよく分からなかった。もうしばらく視聴を重ねて様子見。少なくとも我が家における視聴では今のところ特に違和感が無い。
今までは説明書にも「映画鑑賞メインならスピーカーの向きはシビアに設置しなくても良い」とはひと言も書かれていないので何の疑いもなく真正面に捉えて取り組んでいた。今は「できるだけITU-R BS.775-1を守らなければ」という精神的な呪縛から開放された気分だ。カット&トライを繰り返し自分好みに調整するほうが良い結果が得られる場合もあるという参考になれば幸い。
こちらの頁、今見つけて読みました(正確には読みなおしました) ITU-Rに高さも書いてあったんですね。全く気がつかなかった。高さのスピーカー、といえばハイトかトップというイメージが強かったからかも。失礼しました。
私もサラっと(カッコ)括りで書いちゃっているので読み飛ばされたかもしれませんね。読みづらい文面で申し訳なかったです。